ワークショップ研究会
[dia-log-us]
第1回 「井戸本さんに、学校の図書館について聞いてみる」
三重県を中心にワークショップのファシリテーターや研究者で構成されるワークショップ研究会では、様々な現場で魅力的な実践を行っている方にお話を伺っていく活動を始めます。その名も「dialogus」。ラテン語で「対話」を意味するこの言葉、ワークショップ研究会のメンバーがホストとなり、ゲストに直撃!行われた対話はアーカイブ化を目指します。
第1回は、三重県立津高校で図書館司書を勤める井戸本吉紀さんがゲスト。学校内の図書館を使って様々なことを企画している井戸本さんの取り組みは「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー2021」の優秀賞を受賞。そこにはどんな思いがあり、どんな喜びや苦労があったのか、『根掘り・葉掘り・深掘り』を目指し、お話をお伺いしました。そのまとめです。
第一回dia-log-usでは井戸本吉紀さん(三重県立津高等学校主査《学校司書》)をゲストにお招きし、津高校学校図書館で、具体的にどのような工夫と運営がなされているのか、現状や課題、今後の展望などをお話しいただきました。
学校図書館と聞くと静かな空間で生徒たちが読書をしたり勉強をしたりしているという印象がある方も多いのではないでしょうか。井戸本さんはそんな図書館のイメージの枠にはおさまらない、魅力ある図書館の運営を実現しておられます。
津高校では図書館の存在を発信するため「青空図書館」を開催しています。昼休みを利用して中庭に図書館が出張するものです。また生徒に読書を促進するだけでなく、邦楽部やダンス部と協力してライブを開催し、多くの人のために図書館を開けたものにしています。これらの活動は、コロナ禍で発表の機会をなくした生徒への場所の提供になったり、普段利用しない生徒への興味関心を刺激し新たな利用者への働きかけにもなったりしています。
他にも津高校図書館では多くの企画・イベントが活発に行われています。多くの方が目にしたことがあるであろうWikipediaを利用した活動がその一つです。これは津市の安濃町を実際に歩いて撮影したりして調査、Wikipediaに書き込むというものです。「津綟子」「安濃城」「経ヶ峰」の記事を加筆・執筆しました。この活動は資料の使い方や正確な情報の取捨選択について学ぶという目的で行われました。
さらに、学校図書館の充実した運営には学校の先生との協働も重要です。井戸本さんは様々な学校の企画・授業にも顔を出し、教員や学校への理解を深めているというお話もありました。多方面へ働きかける井戸本さんの積極的な姿勢によって、津高校の魅力あふれる図書館が作り上げられているのです。
これらの活動を行うことで多くの生徒の図書館利用に繋がり、津高校では井戸本さんの赴任前は1年間で約2,500冊ほどだった貸出数が現在では約9,500冊と約4倍の蔵書貸し出しが実現しています。また全校生徒に対して、年間で一冊以上本を借りた生徒の割合は、赴任前の22.3%から昨年度は48%へと増加。「図書館=静かにする場所」という従来からのイメージを問い直し、生徒の興味関心を伸ばす企画を実施して、図書館利用のハードルを下げることで、より多くの生徒が津高校学校図書館に魅力を感じているのではないでしょうか。
井戸本さんは今後、より生徒の声に耳を傾ける活動を考えておられます。例えば選挙での投票箱を津市から借り、生徒からの投票で蔵書構成について生徒の意見を取り入れる計画をされています。図書館と投票を繋ぎ、生徒の興味を図書だけでなく選挙にまで広げる工夫をしているのです。
なぜ井戸本さんはこんなにも活動的なのか、その理由は井戸本さん自身が、県立図書館勤務時代に「学ぶ」ということは面白いと学んだからだそうです。高校時代を過ごす生徒に、先生ではない別のベクトルからの刺激を与えることが大切で、より人生を豊かにするのではないかとお話しされました。また、様々な企画・イベントを実施する際に、まず自分が楽しむことを大切にされており、だからこそ向上し続けてより良い図書館を生徒と一緒につくりあげられるのかもしれないと感じました。
最後に井戸本さんにとって「図書館とは何か」とお聞きしました。学校図書館は教育機関であるため、学校としての育てたい生徒像があります。そのような明確な理念を理解し寄り添った運営をし、図書館という本と人との空間がある中で何をしていくか考えていくことが大切だとお話してくださいました。
今回参加し、学びに積極的な井戸本さんとその学びに刺激を受け、より自主的に学び続けようとする生徒の姿が生涯学習として成り立っているように感じました。つまり、井戸本さんが活動的なのはもちろんのこと、自主・自律を目指す学校で主体的な生徒たちがいるからこそ津高校の図書館が成り立っているのです。
また、司書は図書館をただ本の貸し借りのためだけの場所として扱うのではなく、図書館利用のハードルを下げ、生徒一人一人ための「居場所」になるように働きかけていく必要があるのだと感じました。
当日は具体的な活動や地域のお話とともに、あたたかい雰囲気の中でお話をいただきました。井戸本さん、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
ライター:野村美亜・藤本理子
ワークショップ研究会
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第1回 「井戸本さんに、学校の図書館について聞いてみる」
開催日時 2022年4月23日(土) 14時~15時30分
開催場所 オンライン開催(ZOOM利用)
参加者 13名
ゲスト 井戸本吉紀さん(三重県立津高等学校 主査《学校司書》)
ホスト 池山敦・油田晃・園部友里恵・野村廉士(ワークショップ研究会)
次回[dia-log-us]もお楽しみに!!